(長野県)焼却灰の行方5

■住民に説明尽くすべき

 大館市小坂町は、国が埋め立て可能な焼却灰の放射性物質濃度の上限として、6月下旬に示した「1キロ・グラム当たり8000ベクレル」という基準値を、現在も住民に示し、搬入再開に理解を求めている。

 だが、灰を受け入れている山形県や千葉県銚子市などは、早い段階で独自に厳しい基準を設けたり、説明会を繰り返し開いたりして住民の理解を得てきた。

 小坂町で処分を拒まれた千葉県松戸市の灰を、11月から受け入れる長野県中野市では、処分場の親会社が7月上旬、独自に同4000ベクレルという基準を設定。処分場から1キロ圏内に田畑や民家があることに配慮し、国が定めたコメの作付け制限基準「土壌1キロ・グラム当たり5000ベクレル」から、さらに2割下げて設定した。

 搬入時の灰近くの空間放射線量も、上限を毎時0・2マイクロ・シーベルトに設定。これは大館市小坂町での処分を巡って管理計画で定められた数値の7分の1にあたる。

 処分場の親会社は基準を設定後、約2か月かけて、県や市とともに説明会を十数回開き、安全性を訴えた。首都圏の灰の搬入に対し、住民から大きな反発はなかった。

 同社の担当者は「農家が多く、国の基準では納得が得られないと判断した。根拠のある独自基準を定め、住民一人ひとりに心を込めて説明した」と振り返る。

 一方、大館市は9月、処分場付近の住民向け説明会を開いたが、全市民向けは、反対団体の強い要請を受け、今月になって開いた2回のみ。20日の会では参加者が「なぜ積極的に説明会を開かないのか。腰が重い」と語気を強める場面もあった。

 独自基準を設けることについて、小坂町の細越満町長は賛成だが、「(処分場の親会社の)DOWAとの交渉はあくまで県にお願いしたい」と主体性に乏しい。大館市も「基準値変更の可能性もあり得る」とあいまいなままだ。

 県環境整備課の高橋浩課長(57)は「DOWAが出した管理計画で十分安全と考えており、変更は考えていない。他県の例でどうこう言う話ではない」と、あくまで国の基準に沿う構え。DOWA側も「住民や自治体から働きかけがない限り、我々が動くことはない」としている。

 県は今月、全25市町村に対し、被災地のがれきなどの廃棄物を受け入れられるかどうか意向を調査したが、「受け入れる」と回答した自治体はなかった。

 高橋課長は「大館と小坂での反対運動の高まりを受け、被災地の廃棄物を不安視する自治体が増えていった。市町村の回答に影響を与えた」と言い切る。

 大館市の「セシウム反対母の会」は26日、ほかの市民団体とともに、被災地のがれきを受け入れないよう求める要請書を県に出した。

 同会の菅原あつ子共同代表(57)は「廃棄物処理は大館と小坂だけでなく、もはや県全体の問題。国に無条件に従うのが自治体の役割ではない。もっと住民の意見を尊重すべきだ」と話した。

 両市町、県、DOWAがそれぞれ主体性に欠けていたことで、住民の不信と反発に拍車が掛かった。関係者が協調して打開の道を探り、住民に説明を尽くさない限り、焼却灰の行方は定まらない。

 (おわり。この連載は糸井裕哉が担当しました)

(2011年10月30日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/akita/news/20111030-OYT8T00091.htm