〈ニュース圏外〉がれき処分場は「番外地」

■東京都、受け入れの秘密は?

 なぜ、東京都が最初に被災地がれきを受け入れられたのか。処分場に秘密があるらしい。

 羽田空港に向けて着陸態勢に入った旅客機が、轟音(ごうおん)を響かせて上空を通り過ぎる。東京・銀座から直線で10キロ弱。東京港の中央防波堤近くの埋め立て処分場は、荒涼とした風景が広がる。

 ここで、11月初めから岩手県宮古市のがれきを受け入れ始めた。来年2月からは宮城県女川町のがれきも引き受ける。両県分で計50万トン。「本格的な広域処理ができているのは東京都だけ」(環境省)だ。

■住所なく都が「直轄」

 「海に隔てられ、最も近い住宅でも5キロは離れている。中間処理施設も埋め立て地の一角にある」(都の担当者)という立地条件に加え、「地元自治体」がないという特殊事情がある。

 中央防波堤の周囲にあるのは「内側」「外側」「新海面」と呼ばれる各埋め立て地。まず内側が1970年代半ばからゴミや建設残土で埋め立てられ、現在は外側と新海面に移っている。すでに東京ディズニーランドの10倍以上の約550ヘクタールを埋め立てた。

 でも、ここは住所がない「番外地」。かつては近隣の5区で帰属争いが繰り広げられた。3区が降りた後も、江東区大田区で綱引きが続き、いまだに決着していない。いわば都の「直轄地」というわけだ。廃棄物の搬入路となる両区には事前説明が必要だが、最終決定権は都にある。

 その都の最高権力者はトップダウン石原慎太郎知事。受け入れの際、放射能の影響を心配するメールや電話が3500件を超えたが、石原知事は「『黙れ』って言えばいい」と突っぱねた。

 浄水場で生じた沈殿物、下水汚泥、一般のゴミ焼却灰……。東日本大震災以後、都内で発生する放射性物質を含んだ廃棄物も、被災地のがれき同様にここで処分されている。

■都心には戦災がれき

 「東京湾の埋め立て地は江戸以来のゴミや建設残土のほか、大火や震災、戦災で生じたがれきも詰まっています」。東京湾の埋め立ての歴史に詳しい元都職員の遠藤毅さん(74)は語る。埋め立て地には、災厄からの復興の歴史が刻まれている。

 東京駅八重洲口や有楽町マリオン前の旧江戸城外堀など、今では高速道路が通り、ビルが立ち並ぶ都心の一等地も、川や堀を戦災のがれきで埋めた場所だ。「今回は活用よりも処理が前面に出ているが、かつては関東大震災のがれきを使って低地の高潮対策にも生かした」という。

 恵まれた処分場にも懸念はある。羽田沖の埋め立てが終わった91年以後、ここが東京23区最後の処分場とされているからだ。

 下水汚泥などの廃棄物は、震災以前はセメント原料などに再利用されていた。放射性セシウムの濃度は下がったものの、今も大半はリサイクル再開のめどが立っていない。埋め立てられた浄水場の沈殿物や下水汚泥は、10月末までの半年で計8万トン。4万2千トンだった昨年の倍の量だ。

 今後50年は埋め立て可能とされてきたが、このままリサイクルができないと、処分場の耐用年数が短くなる恐れがある。(菅野雄介)

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〈がれきの広域処理〉環境省によると、東日本大震災により岩手県で476万トン、宮城県で1569万トンのがれき処理が必要になった。岩手県で11年分、宮城県で19年分のごみに相当する。地元の処理能力では間に合わず、国は広域処理の方針を打ち出した。2014年3月までの処理完了を目標にしている。すでに受け入れているのは東京都と山形県の一部自治体。青森県八戸市秋田県、埼玉県、静岡県島田市、神奈川県などが受け入れる意向を示している。

2011年12月29日03時00分 朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/TKY201112280809.html