東日本大震災:汚染稲わら・焼却灰の保管・埋め立て、周辺住民反発−−県南 /岩手

 ◇放射線量高い県南 国の方針定まらず、恒久化を懸念

 東京電力福島第1原発事故で放射性セシウムに汚染された稲わらや焼却灰の処分に、一関市や奥州市など放射線量の高い県南地域の自治体が頭を抱えている。汚染稲わらの一時保管候補地や、焼却灰を埋め立てる最終処分場のある地元住民が反発を強めているからだ。国が明確な処理方針を示していないことも住民の不安に拍車を掛けており、事態は深刻さを増している。【湯浅聖一】

 「安全なら他の場所に造ってもいいではないか」「世界遺産の追加登録を目指す骨寺村荘園遺跡があるのに、風評被害が広がったらどうするのか」

 5日夜に一関市厳美町の本寺中学校で開かれた住民説明会。市が同地区から約10キロ離れた市道沿いの市有地(約2900平方メートル)を、汚染稲わらの一時保管場所に選定したことに、住民から撤回を求める意見が相次いだ。地元区長からは、「岩手・宮城内陸地震震源地付近にあり、磐井川上流で市街地の水源地になっている」ことなどを理由に反対意見書も出され、議論は平行線をたどった。

 同市には、県内最多の約400トンに上る汚染稲わらがある。現在は各農家で保管しているが、どこも満杯状態で、安全上からも早期の処理を迫られている。市内の畜産農家は「危険なわらをいつまでも保管できない。牛の出荷停止もあり、農家の体力はもう限界だ」と悲鳴を上げる。

 市はコンクリート構造物による放射線の遮蔽(しゃへい)などの新たな安全対策や、厳美町の候補地以外に、花泉、大東、藤沢地域にも分散させる方針を示したが、地元の理解は得られていない。

 一方、奥州市前沢区一般廃棄物最終処分場には、胆江地区衛生センターから検出された国の基準値(1キロ当たり8000ベクレル)以下の放射性セシウムを含む焼却灰約1350トン(10月末現在)が埋め立てられている。

 この中には、本来は8000ベクレルを超えるが別の灰と混ぜて基準値内に「希釈」した混合灰も入っている。さらに、同センターには8000ベクレルを超える焼却灰106・5トンが仮置きされている。

 施設を管理運営する奥州金ケ崎行政事務組合は、「混合灰を含めて8000ベクレル以下は埋め立て処分可能という国の方針に従った」と話すが、周辺住民は国や市への不信感を募らせる。

 7日夜に同市前沢区であった住民説明会では「元々、汚染された焼却灰の埋め立ては想定していない。なぜ住民説明もなく運び入れたのか」と市の姿勢に不満の声が上がった。

 政府は8月に国の責任で汚染廃棄物を処理することを明記した放射性物質汚染対処特措法を公布したが、施行は来年1月で具体的な処理方法も盛り込まれていない。一関市は汚染稲わらの保管期間を、汚染廃棄物を管理する「中間貯蔵施設」ができるまでの3年程度と見込んでいるが、最終処分のめどが立っておらず、保管の恒久化を懸念する住民も多い。

 同市の勝部修市長は「市と住民、地域間が対立する構図は避けなければならない。国が道筋を示さない中で、住民の理解を得るのは難しいが、農家の現状を考えれば問題を長引かせることはできない。安全面で最大の配慮をすると訴えるしかない」と苦悩する。

毎日新聞 2011年11月9日 地方版
http://mainichi.jp/area/iwate/news/20111109ddlk03040003000c.html